FP&Aの仕事のなかでも、もっとも大きなイベントの一つである予算編成。
毎年期末が近づくと相当に多忙になるものと思います。3月決算の会社なら第4四半期である1~3月、会社によってはもっと早く準備を始め、半年近く予算編成に費やしているかもしれません。
予算編成実務を語る際のキーワードは、「保守的」な素案を、いかに「適度」な目標水準にもっていくか、というところに尽きるかもしれません。
予算編成のチェックポイント/積み上げ予算は基本的に保守的
それぞれ組織から予算案を収集してボトムアップで予算を編成する場合、どうしても保守的になってしまうのは自然なこと。
営業部門であれば売上は達成しやすい目標にしておきたいですし、そのために投入する販売費、マーケティングなどにはできるだけ予算を確保しておきたい、そのためには利益計画もほどほど実現しやすい水準の予算にしておきたい…と。
管理部門でも同じで、採用人数も確保しておきたいし、未だ決まっていないけれどもなにかに使える予算をキープしておきたい。具体的なアイテムを特定せずに何らかの予備的な費用として予算に含めていたりします。
ということで、予算編成にあたっての主なチェックポイントを、以下、思いつくままにざっとリスト化してみました。
主なチェックポイント | |
売上 | 1.事業部門の売上予算が保守的(または楽観的)すぎないかを見極める |
2.適度なストレッチの余地がないか見極める | |
3.株主の期待水準を把握するとともに、妥当性を検討する | |
原価 | 1.製造業では、適正な製造数量の水準を見極める |
2.製造原価の改善努力を立案し、標準原価に織り込む | |
3.仕入れ数量と価格水準を見極める | |
販管費 | 1.販促費など売上連動費用については、粗利の前年対比%の範囲内まで |
2.管理部門費用は増やさない(会社のステージによる) | |
3.適度な生産性向上のための施策を織り込こむ | |
要員計画 | 1.生産性下がっていない?(一人当たり売上など) |
投資 | 1.過剰投資になっていないか確認する |
(上記は私の経験上製造業に偏っていますが、実務視点ではもっとたくさんチェック項目ありますので、また改めて総ざらいしてみたいと思います。)
成長トレンドか、縮小トレンドか?
さて、予算編成において、業績が成長トレンドにあるのか、縮小トレンドにあるのかという点は、それなりにインパクトがあります。
成長トレンドにある事業部門では売上が上がっていくのですが、妥当な水準で予算を策定できるかどうかが重要なポイント。時に事業部門の想定以上に伸長することもあり、業績管理上設定が難しいところでもあります。
また、売上が伸びていくと、多少費用を使っていても利益が伸びていくのですが、無駄遣いも発生しがち。いかに費用コントロールを徹底し、利益「率」を上げていくのかという点は極めて重要です。
ついつい強気に先行投資しやすい時期ですが、会社全体の業績とのバランスを見ながら方向性を定めていくことも意識しておく必要がありますね。
一方、縮小トレンドになる場合はどうでしょうか?
売上が落ちていく状況にある事業においては、過度に低く見積もっていないかどうか。さすがにその売上予想は低すぎない?
あまりに売上予想が低すぎると生産数量も読み違え、原価を高く見積もってしまうかもしれません。そして、さらに利益を低く見る。
販売管理費は本当に減らせないのか。売上連動する想定の費目についても厳しく目を光らせていくことが大切ですね。
いずれのトレンドでも、「余裕をもって利益を低めにしていた予算を結果として達成」するものの、本来であればもう少し頑張れたところを頑張らず、結局言い値ベースのパフォーマンスに落ち着いてしまうのは避けなければなりません。
トップマネジメントの「勘」
予算編成に影響があるもう一つの要素として、トップマネジメントの「勘」があるかもしれません。
このくらいはできるだろうといういわば強い「勘」を持つリーダーの場合、保守的な予算は認められず、それぞれに高い目標を設定されるかもしれません。トップマネジメントが一番営業のことをよく理解していて、実際のビジネスにおいてもナンバーワンである場合は、そういった場面に遭遇することがあるかもしれません。
その場合のリスクは、トップマネジメントの「勘」が外れた場合…かもしれません。予算編成を推進する中では一番難易度が高い場面ですが、その一方でここで粘らないと羅針盤としてふさわしくない予算が出来上がってしまうことになります。
トップマネジメントの「勘」は非常に鋭いことが多いと思いますが(だからこそのトップなので)、予算編成を推進する組織としては、冷静にその「勘」を理解・分析したうえで、状況によってはチャレンジしていくこともいとわない覚悟が必要でしょう。
予算の方向性を「ほどよく」ガイドできるかがFP&Aの腕の見せどころ
ということで、繰り返しになりますが、予算編成においてFP&Aが貢献すべきところは、以下のような点ということになりそうです。
- 保守的すぎず、妥当性あるストレッチを含めたターゲット設定
- 投資家の期待を踏まえたあるべき姿の見極め
- 1と2のギャップを埋めるための施策立案・実行支援
予算編成のなかで、これらの領域に貢献していくためには、それぞれの事業や機能におけるオペレーションをよく理解し、その中で全体最適の方向性を見出していくのが第一歩。
そのうえで、トップマネジメントとの入念なコミュニケーションと、トップマネジメントがもつ「勘」や「思い」とのすり合わせを図っていくこと。これがまさにFP&Aの醍醐味といえるかもしれません。
(とはいえ予算編成の仕事は骨が折れますし、マネジメント陣からのプレッシャー、現場との板挟みなど、そこそこストレスがかかる仕事ですね。)
以上、網羅性もなく思いつきベースでいろいろ書きましたが、予算編成は、言うまでもなく奥が深い領域。もう少し深堀してトピックを練り直し、再度まとめてみたいと思います。