FP&A/業績管理の基本 第5回: 予算差異 社内目標と達成度の指標

variance vs. budget FP&A

計画経営という観点で、多くの会社では年度ごとに予算を定め、それを指標にして業績をモニタリングしているものと思います。

予算対比は、計算自体は前年対比と同じで、よく似たモノのように思いますが、その意味は全く異なるものと考えておいたほうがよいでしょう。

  1. 予算対比は、目標に対する達成度である。
  2. 目標達成度=人事評価・査定につながる。
  3. 予算達成すればすべてよし、とは言い切れない。
  4. 予算はあくまで社内目標、開示している目標と全く同じとは限らない。

予算差異の計算

計算自体は前年差異と同様、シンプルに、引き算と割り算の2種類です。

  1. 予算比: 実績÷予算(%) または 実績÷予算-1(%)
  2. 予算差: 実績-予算

実績を単純に予算で割ると予算比すなわち達成率になります。そのまま指標として使えますが、そこから1(すなわち100%)を引くと、達成度の増減を比率で表示する形式になります。(例:予算比+10%→実績は予算の110%)

比率について、分母(予算)が極端に小さい場合、分子(実績)が極端に大きい場合などで注意が必要なのは、前年差の場合と変わりません。

予算差は、予算に対して実績がいくらプラス/マイナスか、という引き算ですね。

いずれもプラスであればOK、といいたいところですが、そう単純でもありません。

予算はナビゲーター/予算差異はインディケーター

そもそも予算とは何でしょうか?

予算は会社として進むべき方向性(道筋)を、毎年の活動計画として具体化し、数値で示したものですね。「目標地点を定め、そこにどうやって向かっていくのか」という経営のナビゲーターそのものです。

予算差異分析は、予定通りの実績を挙げることができたのかどうかを示すインディケーターにすぎません。本質的に大切なのは、本当に会社を導く予算を設定できていたのか、ということに尽きるでしょう。

予算策定のプロセスについては改めて別にまとめたいと思いますが、予算差異視点からいくつかポイントを押さえておきたいところです。

予算差異は人事評価のベース

当然ですが、年間の目標があれば、それを達成できたかどうかが人事評価の基本になります。予算は目標を数値として定めたもの。例えば営業担当は売上目標があり、それを達成できたかどうかが評価の重要な要素になります。

そうなると誰しも達成しやすい目標設定にしたくなるのが「ひとの性(さが)」、ですね。

予算編成が困難になるのは、達成難易度の観点で程よい目標感と、会社全体が挑戦的な目標を達成するための各組織・個人の目標にどうしてもギャップが生じてしまうからだといえます。

売上ならば低めの目標を設定し、費用(経費)ならば多めの見積もりをとるという考え方が、予算編成の出発点にならざるを得ないでしょう。予算編成はいつもそういった「せめぎあい」の中で行われるものと思われます。

保守的な予算と挑戦的な予算

予算編成では、経営企画部門、CFO組織(特にFP&A)がいかにしっかり詰め切ったかどうかが、まさに「肝」となります。

仮に予算の検証、適切な目標設定ができておらず、ほとんどの組織が予算を達成してしまうという状況になったとき。結果として予算差異はすべてプラスに出ますが、それでよいのでしょうか?

あるいは実態を見切ることができず、挑戦的な予算編成を行い、各組織が全く予算を達成できないという状況だとどうでしょうか?

その程よいバランスをとることができるか?正解はないかもしれませんが、経営企画部門やFP&Aが業績管理をする中で、経営者の舵取りをしっかりと支援し、方向性を見出すことが求められているといえるでしょう。

社風(カルチャー)、インダストリー

少し甘めに予算を設定するか、少しストレッチして予算を設定するか。

一般的には若干ストレッチすることで会社全体のパフォーマンスを上向きにし、成長していくという考え方になるかもしれませんが、ここでインパクトがありそうな要素のひとつは社風・カルチャーです。

リーダーシップも、チームごとに最適なリーダーシップスタイルが異なるといわれます。似たような考え方で、パフォーマンスを最大化するための予算編成スタイルは、会社の社風・カルチャーによって異なるのではないでしょうか。産業によっても最適な予算編成スタイルは異なるかもしれませんね。

開示する計画(業績見通し)と社内計画(予算)

別の視点で、外部に開示する計画と内部で定める予算が異なるというケースは多々あるものと思います。投資家への説明を意識した会社としての方向性は業績見通しという形で説明されますが、それを達成するための社内組織における予算の設定という建付けです。

もちろん社内でどのような目標を設定し、予算としているのか、という点については開示しないのですが、投資家に説明した方向性を実現する形で社内の予算や目標が定められているかどうか、常に振り返らなければなりません。

奥が深い予算の世界

予算差異はただの数値、そのガイドになる予算自体がどこまで詰め切れているかがとても大切です。予算編成については話がつきません。IR視点などもふくめ、折を見てあらためて予算についてもまとめられればと思います。

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